皆さんこんにちは!匠本舗スタッフのひぐちです!
おせちの味付けについて、自分ではちょうどいいと感じていても、他県の方から見ると意外な反応をされることがあります。毎年全国のお客様から膨大なアンケートをいただく匠本舗のスタッフとして、私はある興味深い現象に気づきました。
それは、全く同じおせちをお届けしているにもかかわらず、ある方は味が濃いと感じ、別の方は味が薄いと感じる、という見事なまでの意見の分かれ方です。今回は、なぜこれほどまでにおせちの感想が正反対になるのか、その背景にある関東・関西・九州の文化的な違いを、アンケートから見えてきた実感を交えてお話しします。
なぜ同じおせちで「濃い」「薄い」と感想が分かれるのか?
お客様の声を日々分析していると、味の感じ方の違いは個人の好みもありますが、その方が育ってきた地域の食文化に深く根ざしていることがわかります。いわば、一人ひとりの心の中に、幼い頃から形作られた味覚のものさしがあるのです。
無意識に染み付いた「故郷の味」の基準
たとえば、濃口醤油で育った地域の方にとって、薄口醤油ベースの味付けは物足りない(薄い)と感じることがあります。逆に、出汁の繊細な香りを大切にする地域の方からすれば、醤油の主張が強い料理は塩分が強い(濃い)と感じてしまうものです。この基準の違いこそが、アンケートの結果を二分する正体でした。日本という広い国の中で、おせちはその地域の個性が最も色濃く出る料理なのです。
■アンケートから見える味覚の傾向
- 濃口醤油文化の地域は、ハッキリした甘辛さを好む
- 出汁文化の地域は、塩分よりも旨味の奥行きを重視する
- 甘み自体が「豊かさ」や「ご馳走」を意味する地域がある
【関東】江戸の粋を感じる、キリッとした醤油の風味
関東のおせちは、かつての江戸っ子たちの生活習慣や武家文化がルーツとなっています。全体的に味がしっかりしており、見た目も潔いのが特徴です。
祝い肴三種:田作りが欠かせない存在
関東で欠かせないのは、黒豆、数の子、そして田作りです。特に田作りは、五穀豊穣を願う大切な一品として親しまれています。味付けには濃口醤油と砂糖を使い、数日間保存しても味が落ちないよう、またお酒にも合うようにハッキリとした甘辛い味に仕上げるのが伝統です。
香ばしさが決め手のお雑煮
お雑煮は角餅を使い、一度こんがりと焼いてから醤油ベースのすまし汁に入れるのが一般的です。焼いたお餅の香ばしさと、すっきりした汁の組み合わせは、まさに江戸の粋を感じさせる組み合わせ。具材も小松菜や鶏肉など、シンプルな構成が好まれます。
【関西】出汁の旨味を最大限に引き出す、優雅な薄口
関西のおせちは、見た目の色彩の豊かさと、口に含んだ時に広がる出汁の香りを何よりも大切にします。公家文化や商人の知恵が詰まった構成です。
祝い肴三種:根を張る「叩きごぼう」
関西では、田作りの代わりに叩きごぼうが三種の一つに入ります。ごぼうを叩いて開くことで運を開き、家族がその土地にしっかり根を張れるようにとの願いが込められています。薄口醤油を使用するため、野菜の鮮やかな色がそのまま残り、お重の中が非常に上品で華やかに見えます。
白味噌と丸餅のまろやかな調和
関西のお雑煮といえば、白味噌仕立てです。角のない丸餅を煮て使い、里芋など丸い具材を中心に入れることで、一年間の円満を祈願します。出汁の旨味と味噌の優しい甘みが溶け合った、とろりとした味わいは関西ならではの贅沢です。
【九州】豊かな甘みと豪華な具材が織りなす独自の文化
九州のおせちは、おもてなしの精神に溢れた豪華さが際立ちます。歴史的に砂糖が手に入りやすい地域だったこともあり、甘口の味付けがご馳走の証とされてきました。
不動のメインディッシュ「がめ煮」
九州(特に福岡)のお正月に、がめ煮(筑前煮)は絶対に外せません。鶏肉の旨味と根菜の甘みが合わさり、九州特有の甘い醤油でじっくり炊き上げられたその味は、非常に濃厚で満足感があります。お重の中でも一際大きな存在感を放ち、家族みんなでたっぷり食べるのが九州流です。
あご出汁と出世魚のぶり
お雑煮はあご(トビウオ)から取った芳醇な出汁を使い、丸餅を入れます。さらに具材として出世魚であるぶりを入れる地域も多く、一杯の器の中に海の幸と山の幸が凝縮されています。甘みと旨味が調和した、非常にパワフルな味わいが特徴です。
一目でわかる!地域別おせち比較まとめ
各地域の代表的な特徴を整理しました。自分やお相手の出身地と照らし合わせてみると、新しい発見があるかもしれません。
| 比較項目 | 関東 | 関西 | 九州 |
|---|---|---|---|
| 祝い肴の代表 | 田作り(カタクチイワシ) | 叩きごぼう | がめ煮(筑前煮) |
| 味付けの特徴 | 濃口醤油・しっかり味 | 薄口醤油・出汁の旨味 | 甘口醤油・コクのある甘み |
| お餅の形と調理 | 角餅(焼く) | 丸餅(煮る) | 丸餅(煮る) |
| お雑煮の汁 | 醤油ベースのすまし | 白味噌仕立て | あご出汁のすまし |
まとめ
同じおせちに対しても感想が分かれる理由は、日本の豊かな地域性が今もしっかりと息づいている証拠です。匠本舗のスタッフとして毎年アンケートを拝見するたびに、この地域ごとのこだわりの深さに驚かされ、また日本食の素晴らしさを再認識しています。
自分のルーツに馴染んだ味を追求するのも素敵ですし、あえて今年は他地域の味をお取り寄せして、文化の違いを体験してみるのも面白いかもしれません。地域の基準を知ることで、来年のおせち選びがよりワクワクするものになれば幸いです。
■おせち選びのヒント
- 自分の地域の「味のものさし」を意識してみる
- 贈答用には相手の出身地の文化を考慮する
- 新しい味に挑戦するなら、お取り寄せが最も手軽












